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北野恒富花の夜
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北野恒富の《花の夜》では、目じりや耳たぶ、手足の指先と爪の淡い赤みが、女性の肌に血を通わせている。大正の終わりから昭和の初めにかけて、恒富の画風は淡く明るくなっていく。この絵は、それを先取りした一作とされる。
桜の下に美人を立たせるのは、江戸時代によく描かれた主題だ。恒富はこの主題を、これより先にほぼ同じ図柄の《花》でも描いたとみられる。比べると変化がよく分かる。《花》は顔立ちが張りつめ、色も濃く、ほの暗い。《花の夜》では画面全体が淡く明るくなり、《花》では頬にわずかに見える程度だった赤みが、目じりや指先にまで及んでいる。
肌に命を感じさせる描き方は、恒富自身の美人画への考えとも重なる。大正13年(1924年)、恒富は、今の人が美しいと思うのは、健やかな体から生き生きとした心がにじみ出る女性だと書いた。線が少々震えていても、命が躍動していれば立派な作品だとも述べている。




