
安田靫彦
やすだ ゆきひこYasuda Yukihiko
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東京・日本橋の生まれ。家は代々彦根藩の御殿医を務めた家柄で、幼い頃から古典籍や刀剣、能面といった日本の古いものに囲まれて育った。この生い立ちが、生涯を貫く歴史画への傾倒の土台になっている。画技は鈴木華邨に学んだのがほぼ唯一の師事で、あとは独学に近い。十代で小林古径や今村紫紅らと「紅児会」を結成し、岡倉天心が説いた新しい日本画のあり方に共鳴しながら、互いに刺激し合って腕を磨いた。天心が没した後、再興日本美術院の中心作家として大正・昭和期を歩み、前田青邨らとともに院展を支える存在になった。
安田の絵は、歴史上の人物が動く一瞬を、余分なものを削ぎ落として捉える。代表作《黄瀬川陣》は、平家打倒に立ち上がった源頼朝と、奥州から駆けつけた弟・義経が対面する場面を描いたもので、鎧の質感や床几に座る二人の呼吸までが、抑えた色数と細く強い線だけで語られている。歴史考証を踏まえながらも記録に堕さず、人物の内面の緊張をすくい取る筆致は、仏像彫刻や大和絵の呼吸を自らの中で咀嚼した上に成り立っていた。晩年の《飛鳥の春の額田王》もまた、万葉の歌人の佇まいを静謐な気配として描き出している。
1948年に文化勲章を受章し、日本芸術院会員として後進の指導にもあたった。94歳で没するまで筆を執り続け、その端正で凜とした画風は、近代日本画における歴史画の到達点のひとつとして今も見る者を惹きつける。
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