
エル・グレコ
El Greco
4 作品
本名ドメニコス・テオトコプーロス。クレタ島の生まれで、最初に学んだのはビザンティン聖像画の技法だった。金地に浮かぶ聖人像を描く徒弟修業を終えたのち、二十代でヴェネツィアへ渡る。そこで出会ったのがティツィアーノの工房であり、ティントレットの劇的な筆致だった。色彩を厚く塗り重ね、光を人物の輪郭ごと歪ませるヴェネツィア派の呼吸を、彼は生涯手放さなかった。ローマではミケランジェロの肉体表現に触れつつも「自分ならもっとうまく描ける」と豪語したという逸話が残る。過信でも謙遜でもなく、彼にとって絵画とは既存の様式を模倣するものではなく、内側から突き上げる衝動を形にする行為だったのだろう。
1577年、スペインのトレドに腰を落ち着けてからが真骨頂である。フェリペ二世の宮廷画家になる野心は聖マウリティウスの殉教の不評で潰えたが、皮肉にもそれが彼を自由にした。トレドの狭い路地と修道院、そこに集う信心深い市民たちのために描いた作品群——オルガス伯の埋葬の、地上の写実的な群像から天上の渦巻く光へと画面が裂けていく構成、トレド眺望の嵐雲の下で青緑に発光する街——には、誰の追随も許さない独自の宗教的緊張がある。人物は炎のように引き伸ばされ、衣服は風を孕んだように波打つ。写実からの逸脱がそのまま神秘への通路になっている。
死後は長く「歪んだ絵を描いた変人」として忘れられていたが、二十世紀に入ってからピカソや表現主義の画家たちがその歪みの中に自分たちの先駆者を見出した。トレドという一都市に生涯を捧げた孤高の画家が、四百年の時を経て前衛の源流として蘇ったのである。
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