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吉田遠志

吉田遠志

よしだ とおしYoshida Tōshi
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学校へは、とうとう一度も通えなかった。吉田遠志(1911〜1995)は幼い日に片脚が動かなくなり、机の代わりに庭を写生帳にして育った木版画家である。新版画の吉田博を父に、洋画家の吉田ふじをを母にもつ吉田家の長男。祖母るいに背を押され、庭先の鳥や犬ばかり描いたのは、風景に生涯を賭ける父と、自分をどこかで分けておきたかったからだ。

ところが一九三〇年、十代の遠志は父に連れられてインド、シンガポール、香港、ビルマへ旅に出る。並んで写生帳を広げ、同じ光を追ううちに、筆はいつしか父ゆずりの写実的な風景版画へ寄っていった。

転機は一九五〇年、父・博の死だった。手本が消えたとき、遠志は弟の吉田穂高がのめり込む抽象木版へ目を向ける。一九五二年から板に色面と幾何の形を彫りつけ、以後およそ二十年で三百点近い非具象の連作を刷り重ねた。アメリカ、メキシコ、ロンドン、近東をめぐった旅の記憶が、色の断片となって板に落ちていく。

七十年代、遠志はまた生き物へ還る。今度はアフリカだった。草原に象やライオンやキリンを見つめ、克明な線と大きく取った余白で刷り、そこへ自分で物語を書き添えた——それが代名詞となった《動物絵本》の連作である。一九七一年にはカリフォルニアのメンドシーノ・アート・センターで教え、長野・美麻の里に版画の場をひらいた。抽象と生き物のあいだを行き来した一生が、吉田家の版画を次の代へ手渡している。

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