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吉田博

吉田博

よしだ ひろしYoshida Hiroshi
154 作品

「絵の鬼」と呼ばれた男は、山と海を描くためならどこへでも行った。吉田博(1876〜1950)は久留米に生まれ、洋画家として出発する。明治32年(1899年)、二十三歳で画料を懐に単身渡米し、デトロイトとボストンの美術館で水彩画展を開いて渡航費を稼ぎ出した——欧米画壇への売り込みを自力でやってのけた、最初の日本人画家の一人である。

木版画に本格的に取り組んだのは、四十九歳を過ぎてからだった。関東大震災後に三たび渡米した際、粗悪な「日本画版画」が高値で売られているのを見て発奮し、帰国後の大正14年(1925年)に自宅へ彫師・摺師を抱えて工房を開く。版元に属さず、絵師が彫りと摺りを監督して自ら検印を捺す——「自摺」と呼ばれるこの体制が、吉田版画の画質を支えた。

代表作瀬戸内海集 帆船では、同じ版木から摺り分けた朝・午前・午後・夕・霧・夜の六様が、光の移ろいだけで別世界になることを証明した。摺り数は多いもので九十六度に及ぶ。日本アルプス十二題 劔山の朝の岩峰、インドやグランドキャニオンまで、山岳画家としての取材力と洋画の空気遠近法が、新版画のなかでも独自の風景を作っている。

戦後、進駐軍将校の家庭に愛され、やがてダイアナ妃の執務室に瀬戸内海集 光る海が掛けられていたことが知られて再評価が進んだ。昭和25年(1950年)没。長男・遠志、次男・穂高も版画家となり、吉田家は四代続く版画の家系になった。

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