
ジャン・オノレ・フラゴナール
Jean-Honoré Fragonard
32 作品
南仏グラースの香水商の家に生まれ、パリに出てシャルダンの工房の門を叩くが、静物画の地味な修練は性に合わなかったらしい。すぐにブーシェの弟子となり、その甘やかな色彩と軽やかな筆致を吸収した。ローマ賞を得てイタリアに渡ると、ティエポロの天井画の奔放な筆勢や、庭園画家ユベール・ロベールとの旅先での写生に触発され、絵はいっそう自由に、速く、官能的になっていく。
代表作ブランコは、白いドレスの女がブランコで宙に舞い、片方の靴が脱げ落ちる瞬間を、木陰に潜む男の視線とともに描いた一枚。恋の悪戯を隠さず楽しむロココ趣味の頂点であり、注文主の伯爵が「愛人が宙に浮くところを、下から覗ける位置に自分を描いてくれ」と依頼した逸話まで伝わる。閂では、抱き寄せる男と抗う女、赤いカーテンとねじれた寝台布の劇的な対角線構図で、恋の駆け引きの緊張を一枚の絵に凝縮した。ルイ十五世の愛妾デュ・バリー夫人のために手がけた連作恋の成り行きは、庭園を舞台に恋の始まりから終わりまでを描く大作だったが、夫人の趣味に合わず未完のまま引き取りを拒まれるという苦い結末を迎えている。
革命の嵐はロココそのものを時代遅れにした。貴族の恋の戯れを描いてきた画家に仕事は来なくなり、フラゴナールは困窮する。それでも、かつて弟子だったダヴィッドが革命政府の要職にあったよしみで美術館の管理職を世話し、晩年は静かに、しかし忘れられた存在としてパリで過ごした。死後しばらく画壇から名を消されていたが、19世紀後半、ゴンクール兄弟らの再評価によってその筆の軽やかさと官能の輝きが取り戻されることになった。
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