
夏珪
かけいXia Gui
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画面の半分が、何も描かれていない。靄か、水か、それとも光か判然としない余白がひろがり、岸辺や樹影は画面の隅に追いやられて息をひそめている。夏珪が確立した「辺角の景」と呼ばれる構図は、見る者に描かれていない部分を想像させる、恐ろしく大胆な引き算の絵画だった。
南宋の都・杭州の画院に仕え、寧宗の代に待詔となり金帯を賜った。同時代の馬遠と並び称され、二人の姓を合わせて「馬夏」と呼ばれるのはそのためだが、夏珪の筆はより湿り気を帯び、輪郭が滲むように霧の中へ溶けていく。斧で断ち割ったような鋭い斧劈皴で岩肌を描き起こしたかと思うと、次の瞬間には淡墨を刷くように流して山の稜線を曖昧にしてしまう。この硬軟の落差が、夏珪の山水に独特の呼吸をもたらしている。
代表作《渓山清遠図》は、長大な巻物のなかに岩山と水辺の景を次々と繰り出しながら、決して一望のもとに全景を見せない。観る者は巻を繰るごとに霧の切れ間から景色をのぞき見るような体験を強いられる。断簡として伝わる《山水十二景》もまた、月夜の漁村や雪の岸辺を切り取って、季節と時刻の移ろいだけを主題にしたような潔さがある。
李唐に発する院体山水の系譜を継ぎながら、夏珪はそれを극限まで簡略化し、墨の濃淡と余白の呼吸だけで奥行きを語る様式へと磨き上げた。この「減筆」の美学は、のちに海を渡って雪舟をはじめとする日本の水墨画家たちに深く浸透し、床の間にかかる一幅の山水画のなかに、いまも夏珪の霧が漂っている。
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