
ウィリアム・ブグロー
William-Adolphe Bouguereau
15 作品
肌の質感だけで一枚の絵が成立してしまう画家がいる。ブグローの裸婦や農村の子どもたちを見るとき、人はまず絵具の存在を忘れる。それほどまでに滑らかで、まるで石膏より緻密な肌理が画面を覆っている。ラ・ロシェルの商家に生まれ、パリのエコール・デ・ボザールで学び、1850年にはローマ賞を獲得してイタリアへ留学した。ラファエロやアングルの均整の取れた古典様式を血肉化し、生涯その線を離れることがなかった。
代表作ヴィーナスの誕生は、貝の上に立つ女神を中心に天使や海の精が渦を巻く構図で、輪郭線をほとんど感じさせない筆致の融合ぶりが際立つ。同様の完璧な理想美はニンフとサテュロスや、貧しい姉妹の情愛を描いた小さな物乞いのような風俗画にも貫かれている。サロンの常連として毎年のように大作を発表し、審査員も長く務めた。フランス公式美術のまさに頂点に立つ存在であり、弟子や後進の指導にも熱心で、アカデミー・ジュリアンで多くの画家を育てた。
しかし同じ時代、エドゥアール・マネや印象派の画家たちが筆触を残すことをむしろ絵画の魅力として打ち出し始めていた。ブグローの磨き上げられた表面は、やがて「サロン絵画」「アカデミズム」という言葉とともに保守の象徴として語られるようになる。20世紀に入るとその名はほとんど忘れられかけたが、写実技術そのものへの評価が見直される中で、近年は再び熱心なコレクターと研究者を集めている。理想化された美への信仰を最後まで貫いた、19世紀アカデミー絵画の到達点である。
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