
フィンセント・ファン・ゴッホ
オランダ南部、牧師の家に生まれる。画商の見習い、ロンドンやパリでの奉公、教員、そして炭鉱町での伝道師と、二十代半ばまで職を転々とし、そのどれにも居場所を見つけられなかった。画家になろうと決めたのは27歳を過ぎてから。独学に近く、アントン・マウフェに短く師事した程度で、初期はオランダの農民や織工を沈んだ土色で描いた。代表作じゃがいもを食べる人々はその極点にある一枚だ。
1886年、画商をしていた弟テオを頼ってパリへ出ると、絵が一変する。カミーユ・ピサロやポール・ゴーギャンらと交わり、印象派・新印象派の明るい色彩と点描の技法を貪欲に吸収した。1888年、光を求めて南仏アルルへ移り、黄色い家を借りて「画家の共同体」を夢見る。ゴーギャンを招いて始まった共同生活はわずか二カ月で破綻し、口論の末に自らの耳を切り落とす事件を起こした。それでもこのアルル時代にひまわりの連作、夜のカフェテラス、寝室を描いた連作など、代名詞となる仕事が集中して生まれている。
サン=レミの療養院で発作と寛解を繰り返しながら描いた星月夜は、渦を巻く筆触と激しい色の対比で夜空そのものを感情の運動に変えてしまった作品だ。晩年はパリ郊外オーヴェール=シュル=オワーズに移り、医師ポール・ガシェの見守るなか、驚くべき速さで麦畑の連作を描き続けたが、1890年7月、拳銃で自らを撃ち、二日後に37歳で世を去った。
生前に売れた絵はほとんどなく、生活はテオの仕送りに支えられていた。だが二人のあいだで交わされた膨大な書簡は、絵と同じくらい雄弁にこの画家の内面を今に伝えている。厚く盛り上げた絵具と唸るような筆致は、アンリ・マティスらフォーヴィスムや、その後のドイツ表現主義に直接受け継がれ、20世紀絵画の出発点のひとつとなった。
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