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川上澄生

川上澄生

かわかみすみおSumio Kawakami
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「はつなつのかぜとなりたや」——《初夏の風》の画面には、うつむいた洋装の女と、その傍らにこの一節がローマ字と仮名でぎこちなく彫り込まれている。1926年に国画会へ出したこの一枚を見て、青森の棟方志功が版画家になろうと心を決めた、と伝えられる。彫りは決して達者ではない。むしろたどたどしい。だがそのたどたどしさが、明治開化の匂いをまとった詩情を静かに立ちのぼらせる。

川上澄生は1895年、横浜に生まれた。若い頃はカナダのビクトリアに渡り、アラスカの缶詰工場で働くなど北米を転々とし、1921年に帰国して宇都宮中学校の英語教師となった。教壇に立ちながら、下絵から彫り、摺りまでをひとりでこなす創作版画にのめり込んでいく。特定の師につかず、我流で版木に向かった人である。

異国船、ギヤマンの器、南蛮渡来の帽子とマント、開化期の洋燈やレンガ塀——澄生が繰り返し彫ったのは、長崎の南蛮風俗と文明開化の残り香だった。木版のほかに木口木版やガラス絵も手がけ、自筆の文字を絵の一部として画面に散らす。処女詩画集《青髯》(1927年)や、いろは順に異国の人物を並べた版画本《ゑげれすいろは人物》(1935年)では、絵と文字が同じ彫り味でひとつづきになっている。郷愁と憧れがまじりあった、どこにもない懐古の世界だ。

1972年に没するまで、素朴な彫りとあたたかな詩情を手放さなかった。その画業は栃木県立美術館や、1992年に開館した鹿沼市立川上澄生美術館に受け継がれている。

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