
テオドール・ジェリコー
Théodore Géricault
9 Artworks
馬に憑かれた画家だった。ルーアンの裕福な家に生まれ、パリでカルル・ヴェルネ、続いてピエール=ナルシス・ゲランに学んだが、教室の外でルーヴルに通い詰め、ルーベンスの肉体の躍動とミケランジェロの量感を独学で自分の血肉にしていった人だった。二十歳そこそこで発表した突撃する近衛猟騎兵は、まだ革命の硝煙が残るパリの空気を、跳ね上がる馬の前脚一本に凝縮してみせた。
名を不動のものにしたのは1819年サロンのメデューズ号の筏。実際に起きた難破事件——見捨てられた漂流者たちが十数日のうちに互いを喰らい合うまで追い詰められた惨劇——を、匿名の遭難者ではなく生々しい個人の苦悶として描いた。遺体安置所に通って死体のデッサンを重ね、生存者に直接話を聞き、実物大の筏の模型まで作らせての制作だった。政府の失策を告発する政治的スキャンダルにもなり、賛否は割れたが、この一枚が歴史画の重心を英雄から名もなき人間へと動かした。
晩年は精神病院を訪ね歩き、盗癖や賭博癖などに囚われた患者たちの肖像——のちに「モノマニーの肖像」と呼ばれる連作——を描いている。診断名で人を分類するのではなく、一人ひとりの顔に宿る固有の翳りを見つめる眼差しは、当時としては異様なほど静かで、そして深い。
生涯は短かった。乗馬事故の怪我がもとで脊椎を痛め、療養の甲斐なく32歳で世を去る。だが友人でもあったドラクロワはメデューズ号の筏のモデルを務め、その激情の描法をロマン主義の炎として受け継いだ。ジェリコー自身が完成させた大作はごくわずかだが、残されたデッサンや習作の膨大な量が、休むことなく描き続けたその手の速さを物語っている。
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9 works













