奥
奥山儀八郎
おくやま ぎはちろうOkuyama Gihachirō
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ニッカウヰスキーの角瓶に貼られたラベル。あの落ち着いた文字と地紋を、奥山儀八郎は木の板に彫って摺った。印刷でいくらでも刷れる時代に、わざわざ彫刻刀を入れる——量産される広告のなかへ、手仕事の木肌の温度を持ち込んだのがこの人の面白さだ。
1907年、山形県寒河江の生まれ。1928年に日本創作版画協会展へ《左傾直立》で初入選し、同じころ日本毛織の宣伝部に身を置いた。木版という古い手仕事を広告表現へ引き込み、大高重治とともにニッカのポスターやラベルを仕立てる。《ニッカ夏服地》のような仕事には、既製の印刷物にはない一点ものの手触りがある。
1936年、浮世絵研究家の石井研堂に師事してからは向きが変わる。自分ひとりで彫って摺るのではなく、彫師・摺師と分業する浮世絵の流儀へ立ち返り、すたれかけた伝統技法を呼び戻していった。戦後は神田小川町で日本版画研究所を営み、1954年に松戸・下矢切へ工房を移す。《矢切の渡し雪中》では、雪の降りしきる渡し場を幾度も摺り重ねた。
もう一つの顔がコーヒーだった。無類の好きが高じて日本のコーヒー史を掘り下げ、《かうひい異名熟字一覧》を木版で摺り、『珈琲遍歴』を著す。広告、風景、一杯の珈琲——ばらばらに見える主題が、どれも板を彫り絵具を摺り込む手つきへ吸い寄せられていく。1981年、松戸で没した。
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