
馬遠
ばえんMa Yuan
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画面の隅にすべてを寄せ、残りは霞と余白に預けてしまう。馬遠が編み出したその構図は、のちに「馬一角」と呼ばれるようになった。中央に堂々と山水を据える北宋以来の作法を裏切り、岩も松も人物も画面の隅へ追いやって、あとはただ水と空気だけを漂わせる——見る者の想像力を働かせる仕掛けだった。
生まれは代々宮廷画院に仕える一家で、曽祖父の代から数えて五代続く画家の家系だった。父は馬世栄、伯父も画院待詔、兄の馬逵も名の知れた画家という、絵を描くことが呼吸のように当たり前の環境で育っている。院体山水の大成者李唐の斧劈皴を学び、硬く鋭い筆致で岩肌を削るように描く技法を受け継ぎながら、それを自分なりの余白の美学へと組み替えていった。光宗・寧宗の二代にわたって画院待詔を務め、宮廷の第一線で活躍している。
代表作《寒江独漁図》は、広い画面のほとんどを白く残し、片隅に小舟と釣り人を置いただけの一枚。舟の輪郭と、かすかに揺れる水面の線だけで、冬の川の静けさと寒さがそのまま伝わってくる。《踏歌図》では歌いながら山道を行く農夫たちの足取りを軽やかに描き、《山径春行図》では柳の枝がしなり、鳥が羽ばたく瞬間をとらえて、余白の中に春の空気そのものを漂わせた。
同時代の夏珪と並び称され「馬夏」と呼ばれたその画風は、南宋院体山水のひとつの到達点であり、禅の精神とも響き合うものとして室町期の日本にも渡り、水墨画の展開に長く影を落とし続けることになった。
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