金子國義
金子國義(かねこ くによし、1936–2015)が描く女たちは、たいてい半ば目を伏せ、細い首をわずかに傾げている。無地の張りつめた背景に、様式化された身振りだけが宙に浮き、油彩の艶やかな肌の上を、世紀末ヨーロッパを思わせる耽美と退廃が静かに這っていく。
埼玉県蕨市、織物業を営む裕福な家の四人兄弟の末っ子に生まれた。幼い日から図画と習字に秀で、バレエの稽古にも通っている。この身体の記憶が、のちの絵に張りつめた姿勢と、手足の伸びやかな線となって戻ってくる。日本大学芸術学部に進むと、在学中の四年間、歌舞伎の舞台美術家長坂元弘のもとで舞台装置や衣装づくりを学んだ。絵筆を握る前に、まず舞台の「見せる空間」の作り方を叩き込まれた画家だった。
世に出る後押しをしたのは、詩人高橋睦郎や作家澁澤龍彦との交わりである。1966年、澁澤の依頼でポーリーヌ・レアージュ《O嬢の物語》(澁澤訳)の装丁と挿絵を手がけ、翌1967年、澁澤の紹介で銀座・青木画廊にて初個展「花咲く乙女たち」を開いた。以後くり返し立ち現れるのが、妖しく整った女性像である。ルイス・キャロル《不思議の国のアリス》に寄せた挿絵でも、少女はどこか大人びた眼差しでこちらを見据える。
仕事は一枚の絵には収まらなかった。劇団状況劇場の舞台美術、バレエ公演の構成・演出・美術、『ユリイカ』『婦人公論』『富士見ロマン文庫』といった雑誌や叢書の装丁と挿絵——請われるままに領域を横切っていく。1998年には神田神保町に画廊「美術倶楽部ひぐらし」を構えた。2015年3月16日、東京・品川の自宅で虚血性心疾患のため世を去った。七十八歳だった。
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