
平山郁夫
十五歳の夏、勤労動員先の広島市内で原子爆弾の閃光を浴びた少年がいた。白血球の減少という後遺症を抱えながら絵筆を握り続けた平山郁夫(1930〜2009)にとって、絵を描くことは生き延びることそのものと分かちがたく結びついていた。シルクロードを生涯の主題とした日本画の巨匠は、瀬戸内海に浮かぶ広島県瀬戸田町(現・尾道市)の生まれである。
東京美術学校日本画科に学び、卒業と同時に日本美術院の重鎮前田青邨に師事して、線と岩絵具の古典的な鍛錬を身につけた。画業を大きく旋回させたのは、1959年の再興院展に発表した《仏教伝来》である。インドから経典を携えて帰る玄奘三蔵の姿を、輪郭を靄に溶かした金色の光のなかに描いたこの一作から、平山の主題は仏教東漸の道へと定まった。被爆の記憶は、滅びと再生を見つめる《入涅槃幻想》(1961)のような幻視的な画面にも影を落としている。
1968年に始まる畢生の《シルクロードシリーズ》では、砂漠を渡るラクダの隊商や砂に埋もれた遺跡を、群青の夜と月光のもとに置く。歴史を叙景として描き、旅そのものの時間を画面に呼び込む——そこに平山芸術の静かな力がある。生涯を通じて重ねた現地踏査の集大成が、奈良・薬師寺玄奘三蔵院の《大唐西域壁画》(2000)であった。二十年に及ぶ構想を経て、天山を越え流沙を渡る求法の道の全長を、壮大な壁画連作として結実させている。
画家であると同時に、平山は文化財の守り手でもあった。日本美術院理事長・東京藝術大学学長(二期)を務めるかたわら、ユネスコ親善大使として「文化財赤十字」を提唱し、敦煌莫高窟の壁画修復、アンコール遺跡やバーミヤン大仏の保護に奔走した。文化勲章(1998)、フランスのレジオン・ドヌール勲章、マグサイサイ賞を受けている。郷里の尾道と山梨県北杜市に、その画業と蒐集した文物を伝える美術館が遺された。
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