
ハンス・ホルバイン(子)
ハンス・ホルバインHans Holbein the Younger
10 Artworks
アウクスブルクの画家一家に生まれ、父ハンス・ホルバイン(父)の工房で腕を磨いた少年は、やがて父を超える冷徹な観察眼を身につけていく。十代でバーゼルに移り、印刷業の盛んなこの街で挿絵や木版の仕事をこなすうちに、人文主義者たちと親しくなった。なかでも決定的だったのはエラスムスとの出会いで、彼の肖像を繰り返し描いたことが、後の運命を大きく動かす。エラスムスの紹介状を携えて渡ったイングランドでは、トマス・モアの邸宅に迎えられ、その一族の群像を描き上げた。宗教改革の混乱でバーゼルの仕事が細ると、ホルバインは再びイングランドへ渡り、今度は宮廷に居場所を見出す。ヘンリー八世の宮廷画家として、王本人はもちろん、王妃候補や廷臣たちの顔を次々と写し取った。ドイツ的な線の精緻さとイタリア・ルネサンスの空間把握を独自に融合させた画風は、顔の造作だけでなく、毛皮の質感や宝石の光まで克明に写し出す。代表作大使たちでは、二人の外交官の間に歪んだ頭蓋骨を潜ませ、見る角度によって像が結ぶという離れ業を仕掛けた──富も知も、死の前では等しく虚しいという当時の人文主義的な死生観を、絵の中に仕込んだのである。晩年はヘンリー八世の結婚相手選びのための「お見合い肖像」まで任されるほど信頼され、クレーヴェのアンはその一枚として知られる。1543年、疫病の流行するロンドンで没した。宮廷画家という枠を超え、北方の写実と南方の理知を併せ持つ肖像画の到達点を示した画家である。
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