
フランソワ・ブーシェ
François Boucher
8 Artworks
パリの版画職人の家に生まれ、若くして頭角を現した。修業先はフランソワ・ルモワーヌの工房だが、彼の絵の骨格を作ったのはむしろ亡きヴァトーの素描を版画に写す仕事だった。何百枚という優雅な線を模写するうちに、身体を軽やかにたわめる感覚が指に染み込んだのだろう。1723年にローマ賞を得てイタリアに渡り、帰国後はサロンで急速に評価を高めていく。
1740年代、ポンパドゥール夫人という強力な後ろ盾を得たことで運命が開けた。肖像画だけでなく室内装飾、舞台美術、タペストリーの下絵まで、夫人の趣味そのものを形にする仕事を一手に引き受けた。ビーヴェの綴織工房やゴブラン製作所のために描いた下絵は数十点に及び、日の出日没のような神話主題では、雲の上でくつろぐ女神たちの肌を真珠色に輝かせている。牧歌的な羊飼いの恋、化粧をする女たち、無邪気な子供の群れ――題材は軽やかでも、構図の組み立てと色彩の操作は驚くほど周到で、ロココ様式の頂点を体現する画家として王室製陶所セーヴルの意匠にまで影響を及ぼした。
1765年、国王首席画家とゴブラン製作所の監督という美術界最高位に就く。晩年は視力の衰えに悩まされながらも制作を続け、工房からはフラゴナールという次代の才能を送り出した。ディドロら啓蒙主義の批評家からは「軽薄」「不道徳」と手厳しく批判されたが、その批判こそが、ブーシェの描く快楽と装飾の世界がいかに時代の空気を鮮烈に映していたかを裏付けている。1770年、パリで没した。
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